高松高等裁判所 昭和37年(ネ)93号 判決 1963年7月16日
控訴人 工藤喜多宮
被控訴人 宗教法人 極楽寺
主文
原判決を取り消す。
被控訴人と訴外工藤宮太郎及び同河野幸男との間の松山地方裁判所西条支部昭和三三年(ヨ)第一一六号仮処分命令に基づき被控訴人の委任した執行吏荒川房次が別紙図面記載の斜線表示区域の山林につき昭和三三年一〇月八日実施した報行は、控訴人に対しこれを許さない。
訴訟費用は、第一、第二審分共被控訴人の負担とする。
事実
控訴訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴訴訟代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。
当事者双方の主張は、
控訴訴訟代理人に於て、
本件各仮処分の各執行のなされた山林は、別紙図面記載の斜線表示区域の山林である。
民訴法第五四九条に謂う所有権其他目的物の譲渡若しくは引渡を妨げる権利とは、単に所有権又は占有権等の実体上の権利のみに限らず、広く執行を妨げるべき権利を含むものと解すべきであるから、本件二つの仮処分の執行の目的物が同一である以上、先行する第一次仮処分権利者である控訴人はこれと牴触する第二次仮処分の執行を妨げるべき権利を有するものと言うべきであるから、後から重複してなされた被控訴人の本件仮処分の執行が許さるべきでないことは明らかであると述べ、
被控訴訴訟代理人に於て、
本件各仮処分の各執行のなされた山林は、別紙図面記載の斜線表示区域の山林であるとの控訴人の主張事実は、これを認める、
と述べた外は、すべて原判決書摘示のとおりであるからこれをここに引用する。(但し、原判決書二枚目表一一行目に、原告の仮処分申請人としての権利を侵害することが明白である、とあるを、控訴人が、被控訴人の本件仮処分の執行を妨げるべき権利を有することが明らかであるとし、同一二行目二九字目から同裏一行目一二字目までの四四字を削除する。)
証拠<省略>
理由
控訴人主張の者を仮処分当事者とする控訴人主張の内容の二つの仮処分がそれぞれ発布執行されていること及び右各執行のなされた山林は、別紙図面記載の斜線表示区域の山林であることは、当事者間に争いがなく、右各仮処分の各執行の日が控訴人主張の各日であることは、被控訴人の明らかに争わないところであるから、控訴人を仮処分権利者とする仮処分(以下第一の仮処分という。)の執行は、被控訴人を仮処分権利者とする仮処分(以下第二の仮処分という。)の執行に先行して執行されたことは、暦数上明らかである。
右事実によれば、第二の仮処分の債権者は被控訴人、債務者は訴外人二名であるけれども、右仮処分の内容に、執行吏保管の条項があるのであるが、この条項の執行がなされると、その目的物件は、執行吏の占有するところとなるところ、右占有の性格が公法上の占有であるか、民法上の占有であるかについては、講学上争のあるところであるが、これをいずれに解するにしても、それは、執行の目的物件に対する事実的支配であるから、何人もこれを侵すことは、許されないというべきである。(このことは、右占有が国家機関たる執行吏のそれであるからではなく、何人も他人の占有を故なく侵すことは、許されないからである。)。
ところで、第一の仮処分の債権者は控訴人、債務者は被控訴人であり、その内容が被控訴人に対する立入禁止、控訴人のなす樹木伐採等の妨害禁止であることは、前に述べたとおりであるから、その執行がなされると、控訴人は、対被控訴人関係においては、その執行の目的物件につき右伐採等の行為をなすことが出来るというべきである。それで第一の仮処分の執行のなされた後、その執行のなされた物件に対し、第二の仮処分の前記執行吏保管の条項が執行され、右物件が執行吏の占有するところとなるときは、前述の、何人も右占有を侵すことは許されない、との理由により控訴人は右伐採等をなすことが出来なくなり、第一の仮処分の執行に依り得た利益を害せられるわけであるから、控訴人は、かような執行に対しては、仮処分の執行に準用される民訴法第五四九条に依り、異議を主張することが出来るというべきである。ところで、第一の仮処分の執行が第二の仮処分の執行に先立つてなされたこと及びその各執行の目的物が別紙図面記載の斜線表示区域の山林であること、即ち同一であることは前述のとおりである。
果して然らば、右規定に基づき、被控訴人のなした第二の仮処分の執行につき、控訴人に対する不許の宣言を求める控訴人の本訴請求はこれを認容すべきであり、従つてこれを排斥した原判決は、不相当であるから、これを取り消し、本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第九六条第八九条に則り、主文のとおり判決する。
(裁判官 安芸修 東民夫 水沢武人)
別紙
西条市中奥所在の新並谷上流の泉のある地点をA点とし、A点から同谷に沿つて下流へ四五〇米距てた地点(小谷の分岐点)をB点とし、B点から小谷沿いに二四米距てた地点をC点とし、C点から稜線沿いに東南へ四〇〇米距てた水汲道との交叉点(地上約七寸の境界石あり)をD点とし、右ABCD点を結ぶ線に囲ぎようせられた地域(別紙見取図斜線の部分)とする。
見取図<省略>